さて、本題に入らせていただきたいと思います。
申し遅れましたが、私は、株式会社リクルートで「大学広報の企画」という仕事から社会人としてのキャリアをスタートし、全国で手広く看護医療予備校を展開する株式会社東京アカデミーの理事長に、（甘〜い言葉で）ヘットハンティングされ、看護師募集雑誌「Median」の事業を任されるという形で、この業界に入りました。
そこで初めて医療界、病院を知ったとき、驚いたことが3つございます。それが病院広報を組み立てていく上で、私の前提になっています。
まず一つ目、「病院は組織活動を代替するカタチある『商品』を持たない」です。
これは病院が提供するサービスの本質は消費者に分かりにくく、病院の設立母体、官か民か。その規模や建物、そういった目に見える外形だけでイメージされやすい、ということです。
たとえばソニー・PS3の機能は企業イメージを形成しますが、PS3が、どんな工場で生産されているかなんて「そんなの関係ない！」ですね。
どんなにすばらしい医療を提供していても、看護師さんがみんなとても優秀な方でも、それが外から見えにくい、捉えられにくい組織であるということです。
そして二つ目、「病院が組織活動を展開する『商圏』が狭い」。
つまり病院は、どんなに大きい病院も地場産業であるということです。
そのため、職員の行動が患者さまはもちろん、地域の住民に丸見えだということですね。
ですから美辞麗句を並べた魅惑的な広告・宣伝を展開しても、職員の一挙手一投足で本当のことが解ってしまう、ということです（以前、「俺は赤髭だ」という理事長さんに、病院の横にあるデラックスな豪邸を皮肉って、嫌われたことがありますが…）。
そして最後は、「病院の組織活動を推進する『エンジン』が弱い」ということです。
ちょっと解りにくいかもしれませんが、病院を構成する皆さんの活動を、自律的に展開していく「仕組み」が、企業と比較して弱いのではないかということです。
一つの例を挙げると、私がリクルートに入る時、「ゆくゆくは俺が社長になってやる」と思って入社しました。今考えると無謀ですね！
ただ、不可能ではない。この事実が重要です。病院に新しく入職する方の中で、何人の方が、このような「無謀な夢」を抱いていますか？
この三つの視点を私は強く感じました。
そしてその視点を大事にすることで、病院の組織広報とはどういったものか、どうあらねばならないかを考え続けてきました。また現在も考え続けています。
さて、いよいよ組織広報とは何か？です。
まず最初に、皆さまにご質問します。
「あなたの病院は、どういう病院ですか？」ちょっとイメージしてみてください。
（そのようなことは無いと思いますが、そのとき頭にイメージされたのは、先ほど私が申しました病院の外観や規模だったでしょうか。もしイメージされたことが、もし病院の外観といったことですと、残念ながら「公的病院」には勝てませんよ！）
その上で、そのイメージが、職員の皆さん、患者さま、地域の方々、ネットワークを組む地域医療機関の皆さんと一緒だったとしたら、すばらしいとお思いになりませんか？ どうでしょうか？
さらにもう一つ、質問です。
「あなたの病院は、どんな病院になりたいですか？」
夢でも結構です。現実と格差があっても結構です。どんな病院になりたいでしょうか？ ちょっとイメージしてください。
さっきと同じように、職員・患者・地域住民・地域医療機関の皆さんと答えが一緒なら、もっと素晴らしいと思いませんか？
さらに、「実現のために、みんなが協力してくれたら」
もっと、もっと素晴らしい！そう思われないでしょうか？
これが、組織広報としての「病院広報」の目的です。つまり、
STEP1 「どんな病院ですか？」
みんな答えが一緒。これが組織の可視化です。
STEP2 「どんな病院になりたいですか？」
これはビジョンです。答えが一緒。素晴らしいですね。
そしてSTEP3 「実現のために、みんなが協力してくれたら」
こんな病院が、ウチの地域にあったらいいということですからね。そのために、みんなが協力してくれる。つまりはビジョンへの参加です。
この3つのSTEPが整えば、事業を行う環境がよくなるということです。
即ち、組織広報としての「病院広報」の目的の達成です。
さて、これをHIP流に定義すると、病院における組織広報とは、「病院が実施する組織活動を、病院に関わるすべての人たちに、自らとの関わりにおいて、正確な理解を図り、それに基づく行動を促すことによって、組織活動が円滑に行える、環境を整えるための事業戦略」です。
もう少し噛み砕いて言うと、「病院広報」とは、病院の行う組織活動に目に見える「かたち」を与えると、それを「伝える」。
この二つだと私たちは考えています。
では次に、目に見える「かたち」を与えると、それを「伝える」、その一つひとつを見ていきたいと思います。
